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長野まゆみ 「夏期休暇」 (長野まゆみは宮沢賢治である:ネタばれ注意)

泳げない弟、姉、夏、地元の子、地元の子に対する姉の憧れ。この構図、この間読んだ夜光虫とそっくりだなぁ。森の方は姉の視点から、長野の方は少年達二人の視点から書かれている。



 海岸で起こる出来事。結局どちらも「弟」は死ぬのであるが、カインとアベルでも死ぬのは弟であるし、弟とは死にやすい生物であるらしい。
 どちらかがまねをしたのか、というのは興味深い話であるが、時代からすると森瑤子の方がずっと早く、そちらがまねをしたということはありえない一方、長野の方もまさに長野らしいテーマと言えるとともに、たまたま近い時期によんだから気づく程度の類似性にすごく薄まっているのでマネというよりは翻案、またはアイデアの一部になった程度だろう。それにしてもこの問題は常に話題になるが、マックとウィンドウズしかり、ジャングル大帝とライオンキングしかりで、インターテクスチュアリティの世界の中では、マネやアイデアの借用を証明することは大変難しく、やったもん得となってしまうことが常である。それは残念なことであるが事実である。
 それはさておき、ちょっとストーリーについて語ってみたい。

登場人物 千波矢(ちはや) ・・・・・地元の少年(小学校5年生?)

       桜・・・・・・・・・・・・・・・・・・岬の家に越してきた三姉妹/弟の長女
       桂・・・・・・・・・・・・・・・・・・岬の家に越してきた三姉妹/弟の次女
       葵(あおい)・・・・・・・・・・岬の家に越してきた末っ子 (実は男の子)

       青(あおい)・・・・・・・・・・・千波矢の兄(亡霊)
       
       子犬


似ているということ、擬するということについて思わされる。葵は、ずっと姉達のように自分を擬してきた。千波矢に会うまでは。千波矢に会った葵は、自分の白い肌、ひ弱な体を恥じ、浅黒く活発な千波矢に憧れ、自分を擬そうとする。
 千波矢は兄、青のことをわずかしか覚えておらず、彼はやさしい兄として慕っているが、青との間に起こったいやな事件を無意識の底に隠蔽しているためそのことを思い出させるようなことには過剰に反応する。自分の昔すんでいた岬の家に住むようになった自分と同い年の少年、葵に対してはいわれのないひどい嫌悪を抱くが、その理由の大半は「葵」のイメージが死んだ兄「青」および彼に起きた事故とつながっているからだ。
 葵は子犬を「千波矢」と名づけ、千波矢は子犬を「葵」と名づける。
 桂は、千波矢を見て桜と喧嘩するようになり、自らの髪を切って、「どう、あの子に似てる?」と自らを千波矢に擬する。
 そして、最後の方で、青は千波矢が海に落とした麦藁帽子を千波矢のわがままを聞いて時化の海に取りにいったために死んだことが明かされる。その麦藁帽子は亡霊の青が千波矢と間違えて葵に託すのだが、渡そうとした葵に、「僕は兄から直接渡してほしかった」と千波矢はその麦藁を再び海に投げ捨ててしまう。
 もちろん、葵はその麦藁を波間に見つけ、やっと少し身についた泳ぎでその麦藁を取りにゆき、おりからの時化に見舞われて溺死するーつまり、青とまったく同じ死を死するのである。
 同一化と反復。人が変わっても同じようなことが繰り返されるから個体の死を超えて人間は(ちょっと)安心できる(部分もある)のである。
 
by spiral_cricket | 2006-06-02 10:21 | ほん
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